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ソーシャルワーク研究会便り7

2020.11.11

Virág(ヴィラーグ) Viktor(ヴィクトル)



世界におけるコロナ禍へのソーシャルワーク対応

IASSW及びIFSWのニュース・アイテムの動向から


はじめに

 2020年10月17日(土)に16時より18時までZoomにて行われた第21回ソーシャルワーク研究会では、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行における国際的なソーシャルワーク業界の動きについて取り上げた。パンデミック発生後に、国際ソーシャルワーク学校連盟(IASSW)と国際ソーシャルワーカー連盟(IFSW)のホームページ(www.iassw-aiets.orgとwww.ifsw.org)に2020年10月10日(土)まで掲載された主要なニュース等に基づいて、今までみられてきた専門業界の世界動向について整理した。

 第一に、緊急調査や声明文等の発表、各種オンライン企画などを含むIASSWとIFSWがとった組織的な行動を把握した。例えば、ソーシャルディスタンスの一般化に伴い、「人間関係の重要性」をテーマにした2020年3月17日の世界ソーシャルワークデーのポスターのイメージ図は、以下のようにもともとの握手から、接触のないお辞儀の絵に変更されたことはその象徴的な例の一つである。



 そして、中国に加えて、韓国、イラン、イタリア、インドのように、早く、もしくは強くコロナ禍の影響を受けてきた国々をはじめとして、各国における国内の主なソーシャルワーク対応や実践的な取り組みに注目した。


IASSWの動向

 IASSWの災害介入・気候変動・持続性委員会は、2月11日に中国のソーシャルワーカーとの連帯声明を発行した。3月24日に専用サイトが発足し、会長と災害介入・気候変動・持続可能性委員長の動画メッセージに加え、様々な関連情報が発信されてきた。例えば、ソーシャルワーク全般と社会福祉分野別のパンデミック対応のガイドラインに加えて、遠隔教育に関するものも公開されている。また、各会員校の実践について共有する記事を投稿するように呼びかけられた。これに対して、ソーシャルワーク校と教員及び学生の活動を中心に、計14ヵ国ほどの記事が投稿されており、中国が最も多い(14件)。なお、IASSWの総会は、6月30日に約200人の参加者を対象にZoomによってリアルタイムでオンライン開催となった。同じ時期にイタリアのリミニでの開催が予定されていた世界大会については、11月までの延期を経て、総会時に対面実施の中止が決まり、最終的には10月1日に全面中止となった。

 また、IASSW関連の研究者ネットワークでは、日本と中国を含む計17ヵ国の状況について報告の提出を促し、6月19日にそれらを編集した報告書が発行されている。本報告書では、新型コロナウイルス感染症について、様々な社会福祉制度や組織の運営方法及びサービス提供ロジスティクス経路、そしてソーシャルワークにおける対人の人間関係に打撃を与えたという位置づけになっている。その中で、特に差別などの社会的な影響を含めて最も傷つきやすい人々の保護と権利擁護がソーシャルワークにとって急務であると述べられている。多くの国々でみられた共通の問題として、外出制限の下で家庭内における女性の負担増加と暴力被害、また子ども及び高齢者虐待が取り上げられた。他にも、脆弱性が明らかになったのは、ソーシャルディスタンスが成立しにくいホームレス支援分野と、集団生活が主流の入所施設である。国によっては、死者を適切に見送る限界や、必要物資(防具、食糧など)の不足がみられた。そして、長期的に見込まれる経済不況の影響も懸念される。ソーシャルワーク専門職の対応としては、ICT活用の向上、防具や食糧配布のように現物給付の復活、また行政を含む多機関間の連携において情報交換や手続きの簡素化を挙げることができる。


IFSWの動向

 IFSWは、2月13日に中国ソーシャルワーカー協会による活動報告がニュースとしてホームページに掲載された。3月1日に開設された専用サイトには、各種声明文、事務局長やそれぞれの地域会長と各種委員長の動画メッセージの他に、各加盟国のニュースが載るようになり、事例を中心として5ヶ月と6ヶ月の総括報告もまとめられた。主要な関連ガイドラインは、コロナ禍対応のソーシャルワーク実践における倫理的な意思決定と社会福祉従事者の安全及びウェルビーイングに関するものが公開されている。そして、IFSWの総会は、7月11日から13日にかけて、各地域間の時差の問題に配慮しながら、事前に記録された動画や書き込み形式を活用して行われ、91ヵ国より226人が参加した(加盟国の約7割)。同じく、カナダのカルガリーで開催予定であった世界大会は、完全にオンラインに移り、182ヵ国より20,043人の登録者を迎えるなど、前代未聞の包摂性をもって、7月15日と19日の間に開かれた。また、IFSWは、各種声明文の発行を中心に、パンデミックに関するソーシャルアクションにも従事してきた。IFSWによる主な声明文等は以下を含む。

  • イベント開催に係る指針とソーシャルワークの役割の明確化

  • 世界医師会や国際看護師協会の医療従事者専門職団体への公開感謝状

  • コロナ禍後の世界ビジョンの提示

  • 無料のサービス解放について通信企業への人道的な配慮の呼びかけ

  • 女性殺人と対女性暴力に関する警告

 7月2日に発行されたIFSWの緊急報告書は、倫理上の課題をテーマとし、54ヵ国から607件の回答を分析している。コロナ禍において、ソーシャルワーク実践に様々な制限がかかる一方、新たなにニーズの浮上と従来ニーズの拡大の問題が指摘されている。その中で、主要な倫理的な課題やジレンマのよくみられるパターンとして、1)遠隔や防具を通じた実践における関係構築・維持の問題と、プライバシー保護及び守秘の葛藤、2)拡大し続けるニーズと、制限された資源の活用の間に生じる葛藤、3)クライエントの個別な権利の保障やサービス提供に対する使命と、利用者や支援者などの他者への感染リスク管理の間に生じる葛藤、4)行政と所属機関などによる各種指針やガイドラインと、専門職としての判断及び専門的な裁量の間に生じる葛藤、5)危険やストレスの多い環境下での情緒・疲労の自覚及び管理などのセルフケアの必要性、6)コロナ禍の教訓を基に、未来に向けてソーシャルワークの在り方の再考という6点が挙げられる。

さらに、IFSWの新型コロナウイルス感染症に関する各国ニュースは計40ヵ国(加盟国の約3分の1)に及んでおり、残念ながらパンデミックの犠牲となったソーシャルワーカー(アメリカのNatasha Ott氏 と南アフリカのConny Nxumalo氏 )に関する記事も含む。そして、以下は各加盟国のソーシャルワーカー協会が発行した関連声明文の中での主要なもののまとめである。

  • イタリア・ソーシャルワーカー協会が他国に防具などの救援物資を依頼(後に公開感謝状)

  • イラン・ソーシャルワーカー協会が国際社会に医療品等の貿易規制の緩和を要望

  • 英国ソーシャルワーカー協会協会が首相に防具等を要望

  • ルーマニア・ソーシャルワーカー協会が政府に入所者と一緒に長期隔離中のソーシャルワーカーの特別手当を要望

  • フィリピン・ソーシャルワーカー協会が政府に最前線で公務を果たすソーシャルワーカーの危険手当を要望

  • ハンガリー・ソーシャルワーカー協会が首相に防具等を要望


以上


長崎国際大学 Virág Viktor

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