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ソーシャルワーク研究会便り 4

2020.8.7

山﨑亜弥


対話の実践


1. 社専で学んだ「周りと関わる根本姿勢」

卒業して四半世紀が過ぎ、上智社会福祉専門学校で善き師、善き仲間から人生の指針となる多くの学びを得たことに改めて感謝しています。「人間学」の授業を担当してくださったハビエル・ガラルダ先生の著書「自己愛と献身」は、卒業後にも幾度となく読み直し、初心に帰るきっかけを与えていただいています。同書に下記のような行があります。

「アンガジェー」は、弱い立場に置かれて誰かを必要としている人に、存在をかける人間である。(中略) 「対話」を求め、異なった意見を持っている人と話し合いを保つことによって、自分の真理の部分をより広く、より深いものにしようとする。

このことは福祉現場で働く私にとって、常に心に留めておきたい姿勢です。重度の知的障害により発語が乏しい利用者さんに対しても、コミュニケーションの方法を工夫して意志確認をしながら支援にあたるよう心がけています。


2. デンマーク福祉研修で垣間見た「対話(ダイアローグ)の実践」

今年2月に11日間のデンマーク福祉研修に参加する機会を得ました。概要は6月の研究会で発表させていただいたところですが、今回、デンマーク独自の生涯教育機関である「フォルケ・ホイスコーレ」と「ソーシャルワーカー」に焦点を当てて紹介したいと思います。

(1) フォルケ・ホイスコーレ

デンマークで1800年代前半から創設されていった民衆学校(フォルケ・ホイスコーレ)は、「対話」に基づく生涯教育として全国的に発展していきました。現在、全国に約70校あり、18歳以上であれば誰でも入学可能です。

私が見学させていただいた「エグモント・ホイスコーレ」は、全寮制で障害のある学生と一般学生がペアで学校生活を送る特色ある学校です。障害者1名に対して、ヘルパーとして一般学生2、3名が交代で授業に同席して介助する他、食事、余暇を共にします。授業料は無料で、ヘルパーとしての給料が国から支払われるため学生は経済的に自立して社会勉強ができる環境となっています。また、障害のある学生は自分のヘルパーを面接して選択し、雇用する仕組みとなっており、卒業後に地域社会で自立して生活するための訓練の場ともなっています。なお、この学校は私立ですが、運営費の7割〜8割は国の助成金で賄われているとのことです。構内の設備は整っており、広い廊下に車椅子専用のエレベータも設置されている他、体育館にはボルタリングやウォータースライダーも設置されていて、障害がある学生も意欲的に自分がやりたいことを何でもやっている様子でした。授業はグループ活動が中心で、対話を重視するプログラムが多く取り入れられています。私達は、編み物をしながら「安楽死」についてグループ討議する授業を見学しました。編み物を取り入れた理由は、ADHDなど常に手を動かす傾向にある学生も議論に参加しやすいようにとのこと。なお、エグモント・ホイスコーレは人気のある学校のため、障害者の入学待機が多いこと、一般の就学期間(6ヶ月)を超過して在学する障害者も多く、学校の施設化が課題となっていると聞きました。


(2)デンマークのソーシャルワーカー

「社会福祉士」及び現場勤務の「ペダゴー」の働き方について紹介します。

「社会福祉士」は、デンマークでも日本と同様に福祉に関する相談に応じたり医療・教育サービス提供者との連携や連絡調整を行います。私が現地で出会った社会福祉士・Keld氏は、長年、精神保健分野で活動されています。精神病院の社会的入院の問題に取り組み、地域のグループホームへの移行に伴い、夜間の電話対応システムの構築や就職のサポートを行なってこられた方です。同氏の話では、国が実施した労働環境調査ではソーシャルワーカーの1/3がストレスを感じていること、また、「定期的なスーパービジョン」は常識であるとのこと。自身も毎月、スーパービジョンを受け、またスーパーバイザーとしての対応もしていると仰っていました。日本の福祉現場でも「支援する側の支援」が定着していくことが望まれます。また、私が出会ったもう一人の社会福祉士、オダー市薬物対策課に勤務するクリスチャン氏は、学校・警察と連携して少年犯罪を担当されています。同氏は「罰するのではなく、共に学ぶ姿勢を大切にしている」と言います。クライエントである少年及び家族と対話を繰り返し、可能な限り施設ではなく家庭でケアできるよう最善を尽くしていると仰っていました。

「ペダゴー」は、日本の「保育士」「児童指導員」「生活支援員」「介護福祉士」等の役割をあわせ持ったような専門職で、大学の養成課程で理論と実践を3年半学んで取得できる資格です。就業の場は、児童から高齢者まで幅広く、福祉現場だけでなく、各学校に必ず常駐し、教員と連携して児童の個別対応にあたります。実際にペダゴーとして現地の保育所に勤務する日本人女性・蓑田氏に話を伺ったところ、ペダゴーはコミュニケーションの専門家として園児に対して「子ども同士で話し合うことを重視し、互いに認め合って解決する方法を学ばせる。大人が過度に介入しない。」ことを大切にしているとのことでした。

生涯教育機関である「フォルケ・ホイスコーレ」において、また「ソーシャルワーカー」の働き方をみても「対話」を重視して、国をあげて人材育成に取り組んでいるという印象を受けました。

ノーマライゼーションの理念発祥の地、デンマークでの研修は、福祉の原点に触れる貴重な機会でした。実際に現地を訪ねて直接話をうかがい、課題へ取り組み方を見せていただけたことで、デンマークの現行の福祉サービスはソーシャルワーカーの活躍も勿論ですが当事者・関係者の長年の闘いと努力の結晶であることを学びました。対話の実践が導き、つくりあげていくものの姿を垣間見た思いです。


参考:エグモント・ホイスコーレhttp://www.egmont-hs.dk/

NPO法人 ダイアローグ実践研究所https://www.dialogical.one/


就労継続支援B型事業所 職業指導員 山﨑亜弥

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